著書とその内容の概説

『銀行ビッグバン、21世紀日本の銀行像』
(東洋経済新報社、1997年)

1996年10月に、総理府経済審議会・行動計画委員会の金融ワーキンググループが報告書「わが国金融システム活性化のために」をまとめた。これを受けて11月1日に橋本龍太郎首相は、抜本的な金融改革(金融ビッグバン)を2001年までに具体化することを宣言し、改革案の骨子は「フリー(市場原理が機能する自由な市場)、フェアー(透明で公正な市場)、グローバル(国際的で時代を先取りする市場)の3原則であった。これを受けて銀行はどのような改革が必要かをまとめたのがこの本である。この本では、「バブル崩壊後の銀行は混迷している。病身状態の銀行経営を改革するための戦略は何か、銀行改革、持株会社、業態的生き残策、変革への指針を明示。大手銀行の経営指針として評価された。5版まで増刷。
書評;館龍一郎・東大名誉教授「金融改革の内容と対策を説明した好著であり一読をお勧めする」(金融ジャーナル、1997年 月号)。


『銀行の破綻と競争の経済学――BIS規制からの脱却』
(同上、1999年)

1990年代の日本の低成長と失速の大半の原因は、銀行の信用創造機能(貸出機能)の崩壊と、その結果で生じた信用収縮にあると断言する。信用収縮を引き起こした原因は、BIS規制(スイスのバーゼルにある国際決済銀行に会談した主要国の金融関係の首脳が申し合わせた自己資本規制、国際市場で活動する銀行は資産に対する自己資本比率を8%以上に維持する)を維持するために、日本の大手銀行が資産を圧縮せざるを得なかったからである。日本の大手銀行はBIS規制対策をすべきであり、そのために具体的な政策(BIS規制からの脱却策)を提示した。具体的に提案したのは日本では初めてであった。このほか、米国の大恐慌と銀行破綻、昭和恐慌の銀行破綻、戦後の米国のプルーデンシャル(金融安定化)政策、戦後の混乱期の日本の銀行の預金封鎖とその後の政策などを説明。


『増税が日本を破壊するーー日本は財政危機ではないこれだけの理由』
(ダイヤモンド社、2005年)
2001年4月から小泉内閣が構造改革と称して新自由主義理念を政策の骨格に置き、「政府は多額の借金がある、だから緊縮財政が必要」として「小さい政府、規制緩和、郵政公社の民営化」を推進した。しかし「純債務でみれば日本は財政危機ではない」「緊縮財政で小さい政府にしようとしてデフレ政策を採るから税収が上がらない」「日本は政策危機だ」と主張して構造改革の誤りを指摘した。ここで「日本の財政は純債務でみるべきである」「日本は世界一の債権国であり日本のために自分のカネを使うべきであり、そうすれば財政赤字は解消する」と提言した。
書評;「財政危機は経済政策の結果、増税で本当の危機が来る」「日本の財政を純債務の見地から分析すれば財政危機ではなく、ここで増税すれば政策危機であるという著者の政策判断は正しい」(鈴木叔夫、2006年6月3日『週刊東洋経済』)。
「日本は本当に財政危機なのか、世間の常識に切り込む論理の鋭さ」(真壁昭夫、2006年02月18日『週刊ダイヤモンド』)


『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠――日本の金融危機と金融恐慌の歴史』
(ダイヤモンド社、2007年)
1997-98年の平成金融危機を長引かせた原因は新自由主義者による破壊主義であり、これを阻止して私が1998年8月に提案したのが大手行への公的資金の注入である。この前後関係を整理し、平成金融危機の原因と推移、新自由主義者の「破壊せよ、そのあとで対処すればよい」が金融不安を拡大した点を指摘した。米国の1930年代の金融恐慌と戦後の金融危機の説明もあり、金融危機の歴史が分かる。
書評:『(この本の実態は)第4章「平成金融恐慌を混乱させた市場原理主義者」を中心とする現代経済史の優れた著書だ』(鈴木叔夫、2007年8月25日、週刊東洋経済)。


『消費税はゼロ%にできるーー負担を減らして社会保障を充実させる経済学』
(ダイヤモンド社2009年)
1993年に就任した米国のクリントン大統領は公共投資による景気振興策を継続して実施し、6年目に財政を黒字にした。景気回復による法人税と所得税の増加で州政府は消費税を減額し、ニューヨーク州では消費税免除対象を広げた。ここにヒントを得て「官民共同で投資を増やせば景気が拡大し、法人税収と所得税収が増加し、消費税は減額からゼロにできる」との論調を展開した。


『日本を亡ぼす消費税増税―本当に怖いのは恐慌型デフレだ』
(講談社現代新書、2011年)
2009年9月からの民主党・国民新党・社民党政権では2008年のリーマンショックによる世界的大不況にもかかわらず、公共投資を削減しているためにデフレが進み、このままでは恐慌型デフレ(次々と企業倒産が増える、銀行破綻が生じる)になりかねない。
消費税増税はすべきではなく投資減税と公共投資で景気を振興させて法人税と所得税の増収を図るべきである。


『そして日本の富は略奪される、アメリカが仕掛けた新自由主義の正体――超金融緩和、消費増税、TPPで日本から巨額のマネーが流失し、格差はますます拡大!』
(ダイヤモンド社、2014年)
米国は1993年から日本に「対日年次要望書」を送り、日本を米国型の経済社会体制に変革しようとしてきた。その基本理念が新自由主義というイデオロギーであり、「99%の国民から富を奪って1%の富裕層に集中しようとする政策」を主張するので、まさに悪魔と言うべき存在である。この悪魔はいかにして日本に侵入して来たか、日本がどのようにして犯されてきたかを説明し、日本としてどのように対抗すべきかを論じた。


『新自由主義の自滅――日本・アメリカ・韓国』
(文春新書、2015年)
日本が1990年代から低迷しているのは、小泉内閣が採用した妖怪のごとき新自由主義というイデオロギーの結果であり、この政策を採って債務国に転落した米国、新自由主義で徹底的に破壊された韓国こそ、真似てはいけない他山の石である。安倍内閣の政策は本質的に新自由主義であり、国内経済を破壊し、格差が拡大している。こうした実情を説明し、どのようにして危機を脱すべきかを論じた。


『ゆう―ちょマネーはどこへ消えたか』
(稲村公望と共著、彩流社、2016年)
職を賭してまでして郵政民営化に反対した稲村公望氏(元総務省審議官)と共著。郵政公社の民営化は米国からの対日年次要望書で要望されたもので、公社を民営化させて「ゆーちょマネー」の運用権を米国が握り、米国債への投資などで米国の世界戦略に合致するように利用することが狙いである。民営化後、「ゆーちょマネー」は海外に流れて国内に循環しないため、地方経済が不況に陥り、格差が拡大している。


『使ってはいけない集団的自衛権――トランプを見くびるな』
(角川新書、2018年)
前半では日本が2015年7月に「集団的自衛権の行使容認」を閣議決定した結果、2017年4月に日本の海自隊が米国航空母艦カール・ビンソンを護衛することが可能になり、これを見た北朝鮮は「日本が米国とともに北朝鮮を軍事攻撃するのであれば、北朝鮮は日本を軍事的標的になる」と明言した。集団的自衛権行使容認で犠牲になるのは日本であることが証明された。「集団的自衛権」を日本は絶対に行使すべきではない。安倍首相が「憲法第9条を維持したまま自衛隊を加える」ということから推測されることは、米国(第2次世界大戦の戦勝国の代表)は「絶対に9条を破棄させない」ということであり、これは統一後のドイツでも軍事主権がないことと符合する(基本法第24条でドイツの軍事主権は国際機関に委任されている)。後半ではトランプの「米国第一主義」が極東に地殻変動を及ぼしていることを政治経済両面から分析し、極東アジアで米国と中国の覇権争いのなかで日本が生き残るには、日米同盟は維持しつつも、永世平和宣言をして専守防衛に徹し集団的自衛権を容認しないことが絶対条件であることを主張している。


『米中密約“日本封じ込め”の正体』
(ダイヤモンド社、2020年)

21世紀に入って中国が経済的にも政治的にも台頭し、米中の覇権争いが目立つようになってきたが、実は1970年代から米中両国で行われている政策があった。それは「日本封じ込め」である。トランプの外交顧問であるヘンリー・キッシンジャーと中国の周恩来首相が1971年に行った会談にその原点があり、「危ない国・日本」を封じ込めておこうとする思惑は米中両国に今でも色濃く残っているのである。
冷戦終了後に米国による新自由主義理念によって日本改造計画が進められ、日本がデフレになり、低成長からマイナス成長に落ち込み、さらに国富が海外に流失して行く道筋を解き明らかにする。そして2012年12月暮れにスタートした安倍内閣によって「危険な国・日本」がさらに“危険だ”と認識されるようになり、日本だけが世界から孤立し、さらに長期経済低迷を余儀なくされていることを指摘する。米中対立が進む中で、米国と集団的自衛権の行使容認を決定したことで日本だけがババを引き、日中軍事衝突の可能も示唆する。
今後、日本が生き残るための国家理念は、安倍政権の「戦前回帰の国粋主義」でよいのか、それとも「絶対に戦争しない絶対平和主義」(専守防衛)でゆくべきか。新自由主義国家か、福祉国家か。読者の方には、最も望ましい日本の国家観を考える機会として、この本を読んでいただきたい。